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物件紹介
2023.12.20

SE構法施工物件紹介[住宅 19]

清須T邸

トップライトから1階のリビングへ、光を採り入れる

間口より奥行が長く、前面には駐車場2台分。近隣も建て込んでおり、典型的な郊外型の都市住宅である。1階中央部の広々としたリビング・ダイニング・キッチンを明るい空間にするために、トップライトから吹き抜けを通して、光を採り入れている。SE構法によって5,400mmのスパンをつくり出し、吹き抜けの周囲の柱をなくしている。

清須T邸は、織田信長の居城として知られる清洲城の史跡にほど近い場所に建つ。敷地周辺はもともと旧清洲町朝日城屋敷という地名であったとのことで、その場所が、近年のミニ開発で住宅地となった。その5軒並びの一角に位置する。 今回は、その住宅の施主であり、施工者であり、設計にも関わられたT氏にお話をうかがった。

前面道路はほぼ南で、南側に2台分の駐車場とエントランスアプローチを設けている。近隣もほぼ同じような前面道路側の構成になっているが、これは日本の郊外住宅地の典型的配置のひとつである。このことがプランニングの読解にも意味を持ってくる。

清須T邸の正面、つまりファサードは切妻を正面としている。両隣の住宅は平入りと寄棟だが、T氏は切妻面を正面にしたかったとのこと。つまり住宅の「顔」として妻面が意識された。よってこの住宅のファサードは、駐車場の緩いヴォールト屋根と、その奥の切妻面によって構成されることになった。

建物の間口は、7,280mm、奥行は10,010mm。総2階建てなので、延床面積はおおよそ144㎡(実際には中央の吹き抜け部分約5㎡分だけ小さい)、夫婦+子ども2人の4人家族が住むにはゆったりとしたボリュームである。

 

南側から見る全景。

南側から見る全景。

 

平面計画では、アプローチ、玄関、階段室、浴室などの機能空間が東側に寄せてまとめられている。便所がそこからはみ出してしまったのはちょっと残念だが、機能スペースをコア状にまとめた明快なプランニングへの試みが見て取れる。その幅も1,820mmあるため、玄関および玄関ホールがゆったりとしている。現代人はTPOに合わせて多くの靴を持つし、昨今では自転車やサッカーボールなども置かれたりして、内と外のバッファーゾーンとしても機能するため、これくらいのスペースは欲しいものである。

1階は、リビング、ダイニング、キッチン、和室がほぼひとつながりの空間を形成している。T氏は、1階はできるだけ間仕切りのない広々とした空間にしたかったとのことで、このような平面構成となっている。床材はうずくりにしたスギ板で15mm 厚、壁は漆喰と、自然素材を多用している。

このリビング・ダイニング・キッチンは、図面で見ると、柱間を5,460mm飛ばしているのだが、西側の壁面から袖壁が910mm出ている。この壁、結果としてはキッチンとリビングの境界を明示するものとなっているが、SE構法なのだから、袖壁なしで5,460mmのスパンを飛ばせたのではないかと思う。T氏に質問すると、初めてのSE構法で現場監督が怖がったのではないかとのこと。それまで在来構法しか手がけたことのない監督であれば、構造計算上必要がないために設計図書に記されていなかったとしても、つけたくなってしまうのが心情かもしれない。しかし、その心配がないのがSE構法である。

 

ダイニングからリビング方向を見る。

ダイニングからリビング方向を見る。

 

さて、この住宅の空間の中心は、居間の上部にある吹き抜けである。居間に吹き抜けというのはよくある話だが、T氏に聞くと、家の中心を明るくしたかったからだと言う。そう聞いて腑に落ちた。この住宅は両側が建て込んでおり、窓を開けても採光にはあまり効かない。しかも間口より奥行の長い平面である。当然ながら中央部が暗くなる。最初は中庭も考えたとのことだが、そうすれば外壁面積も大きくなり、コスト的にも温熱環境的にも負担が大きくなる。そこで、家の中心に吹き抜けをつくり、トップライトを設けて光を入れることにしたのだと言う。吹き抜け回りだけ構造体を現わしにしたのは、家全体で室内に構造体を見せると、少しやりすぎな気がしたから、とのこと。

 

リビングから玄関、階段を見る。

リビングと吹き抜けを見る。

リビングと吹き抜けを見る。

 

鰻の寝床に中庭というのは京都の町家の形式であり、それを再解釈したのがかつて安藤忠雄さんが設計した「住吉の長屋」だとすれば、中庭に屋根を掛けて内部空間化したのが、この清須T邸である。その点でこの住宅も現代の町家の系譜にあると言える。

しかし、屋根の西面にトップライトを切るのが果たしてよいのか。開口部分は小さいし直達光の心配は少ないと思うが、夏場を考えると気になったので聞いてみたところ、近隣に配慮した玄関の配置からリビング・ダイニング・キッチンが西側となり、吹き抜けの中央に光を落とすためにこの位置にトップライトを切ることになったのだという。

このように建て込んだ住宅地において、お互いが配慮して建てていく際には、玄関位置が交互になったり、それに合わせて居間の位置が交互になったり、寝室がそれぞれ上下逆転したりといったことが起きてくる。

つまり、戸建住宅でありながら、一軒一軒が集合住宅の住戸設計にも似た組み合わせの意味合いを持ってくるということだ。これは興味深い現象である。T氏との会話からそのようなことを想起した。

 

2階ホールを見る。将来はここに勉強スペースをつくる計画がある。

2階ホールを見る。将来はここに勉強スペースをつくる計画がある。

リビングと吹き抜けを見る。

リビングと吹き抜けを見る。

 

階段上部から吹き抜け方向を見る。

階段上部から吹き抜け方向を見る。

玄関を見る。

玄関を見る。

 

 

2階には、北側に将来子ども室となる予定の「洋室」(現在はT氏が書斎として利用)、南側に主寝室が、吹き抜けを挟んで向き合っている。吹き抜けに面した開口部は窓のようなデザインなのだが、吹き抜けを外部とみなし、あたかも西洋の街の路地を見下ろす窓のようにしたかったとのことである。住宅の内側に取り込まれた都市空間である。とはいえ、途中で吹き抜けに縁側を巡らせたくなってしまったとのことで、現状は和洋混在となった。2階のホールは、幅が1,820mmと広くとってあり、将来はここに子どもたちのための勉強スペースを設けたいとのこと。後ろの階段の手摺の横桟に階段側から合板を貼ったことで本棚を兼ねた腰壁が誕生しているので、2階にも、吹き抜けとつながった共用部が誕生しつつある。

この住宅は、一見何気ないように見えるが、SE構法という架構、機能空間のまとめ方、改変も可能な広いリビング・ダイニング・キッチン、中央のトップライト+吹き抜けによる室内空間の明るさの確保といった、住宅が長い寿命に耐えるための基本スペックを蔑ろにしていない住宅であった。

 

架構図

架構図

 

 


清須T邸
設計・施工:株式会社住和


写真:上田 宏 文:橋本 純