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物件紹介
2023.08.01

SE構法施工物件紹介[住宅 17]

AGING WELL SHOW HOME

庭も居室も等価な生活の場として

大工としての確かな技術を基に、建築士として長く住み継げる家のあり方を追求していくと、
生活の場は外へと広がり、自然素材に包まれた強固な躯体は、まちなみをつくる佇まいとなった。

「AGING WELL SHOW HOME」は、株式会社野澤工務店が2019年からスタートした注文住宅事業「AGING WELL」のモデルハウスであり、常務取締役である野澤星羽さんの自邸でもある。兄で専務取締役の野澤万里さんとともにお話をうかがった。

大工であり建築士である強みを活かす

野澤工務店は1970年にふたりの祖父にあたる野澤義則さんが大工集団として創業したのが始まりである。2代目で現社長の野澤泰則さんが継ぐと、年間35棟の大工仕事をこなす工務店へと成長した。3代目を引き継ぐ万里さんと星羽さんは子どものころから週末は現場について行き、壁のボードを張ったり、断熱材を入れる手伝いを楽しみながら過ごしてきた。そして物心がついたころには大工を志していたという。

高校を卒業すると、ふたりは社寺仏閣なども扱う、大阪・泉州地域で有数の棟梁たちのもとにそれぞれ修行に出た。あえて外に出たのは、建売住宅など工法の簡易化が進み、大工の力量が求められない仕事が増えたことに疑問を感じたから。そしてふたりが修行から戻った6年前、法人化して現在の株式会社野澤工務店となった。兄弟ともに大工であり、建築士の資格も持つことを強みに、独自性を打ち出していく。そのひとつが注文住宅事業の「AGING WELL」だ。

設計と施工を行き来しながらプランをつくり、“素敵に歳を重ねる”という言葉通り、素材にこだわった長く住み継げる家づくりである。

 

ダイニングキッチン。

ダイニングキッチン。ダイニングテーブルと一体となったアイランドキッチンや収納はすべて大工工事で制作。

 

「AGING WELL SHOW HOME」は大阪府泉南郡熊取町に建つ。熊取町は、江戸時代には農業と織物業が盛んで、昭和時代には繊維産業が発達した地である。1960年代には宅地開発が活発となり、農村型集落から住宅都市へと変貌していった。今も周囲には農村時代の名残を感じさせる水路があり、木々が茂るのどかな住宅地だ。明治時代からの古い建物もまだ残っており、多世代の住宅が混在している。

万里さんと星羽さんも熊取町で生まれ育った。この敷地との出会いは、実は南隣に建つ、野澤工務店で手がけた万里さんの同級生の家がきっかけだという。南隣の家の施工中に、畑だったこの土地が売りに出され、迷わず購入を決めた。

設計から家具づくりまで手がける

設計者にとって、分譲地開発でもない限り2棟並んで設計する機会は滅多にない。素材や色彩、高さやボリューム感など、「2棟並ぶことで伝えられること」を考え、小さなまちなみをつくるよう緩やかな連続感をもたせて設計した。

自分たちで設計を手がけるが、現在は株式会社アトリエさんかくの谷口恋さんとタッグを組むことが多い。大工ゆえに合理性や納まりを重視するふたりに対して、思いがけない視点から提案をする谷口さんの存在が可能性を広げてくれるという。

 

ダイニングから玄関方向を見る。

ダイニングから玄関方向を見る。

リビングダイニングから庭を見る。

リビングダイニングから庭を見る。手前のデッキを介して内外が緩やかに連続する。

 

 

今回のL型プランもそうだ。敷地に沿うように北側と西側のボリュームが連なり、北側にLDKを、西側に水まわりと納戸を納めている。LDKから続く長い廊下は一方で庭に面し、壁面側には本棚をつくり付けた。突き当たりは机を設えた書斎で、賑やかなLDKから距離を取った離れのような場所となる。

キッチンを大工工事で制作できるのもふたりの強みである。アイランドキッチンとダイニングテーブルを120mmのレベル差をつけてひと続きとして、天板もクリ材の同素材で、全体を木の塊のように仕上げている。収納の引き出しは既製品と造作の組合せだが、すべて造作することもあるという。

「AGING WELL」では構法に決まりはなく、今回初めてSE構法を採用した。L字型は矩形より水平力の負荷がかかるので在来構法より強度のある架構が求められることと、多くの人が集う4,500×10,000mmのLDKを無柱にできることが決め手となった。

 

キッチンから階段を見る。

キッチンから見る。階段下には曽祖父の代から引き継がれた70年もののチェストが置かれる。

廊下と連続する書斎。

廊下と連続する書斎。

玄関。

玄関。左奥はシュークローゼット。土間で一体となってつながる。

 

しかし手刻みの高い技術力をもつふたりが、なぜSE構法を選んだのかうかがうと、手刻みはどうしても微妙な誤差を許容せざるを得ないが、SE構法の金物とプレカットの集成材は強度と正確さの点でより信頼できるという。納まりの正確さは気密性や断熱性にとっても有利であり、仕口の欠損が少ないことも選択の理由となった。

庭はランドスケープであり活動の場として、「AGING WELL」の家づくりで欠かせない場所である。三角形のデッキは、居室から庭へのレベル差を吸収しつつ段状に広がり、上部の深い軒は、適度な日陰を提供し、庭での滞在を快適にする。南側には植栽と一体となったベンチを設え、道路側には塀の裏側を家具化するようにミニキッチンやプランターをつくり、庭を居場所とするきっかけをちりばめている。

 

2階洋室前からホールとランドリースペースを見渡す。

2階洋室前からホールとランドリースペースを見渡す。2階の壁はすべて間仕切り壁なので、取り払ってひと続きの空間にできる。

住み継がれる家

この家は、息子さんへ住み継ぐことを念頭に、店舗になるなどプログラムが変わることも考慮された。SE構法によるこの躯体では、吹抜け回りに増床したり、間仕切り壁を取り払って内装を変えることも容易である。また、断熱材にはシュタイコという透湿性のあるドイツ製の木繊維断熱材を用いている。木の呼吸を妨げないよう、内装も紙製のクロスとし、外壁も板張りと漆喰で仕上げている。フローリングには無垢材を使用し、自然素材を積極的に採り入れて、手入れをしながら使い続けられる仕様としている。高い強度を持つSE構法の躯体と、それを包み込む自然素材により、まさに「AGING WELL」の理念を追求する家となった。

 

東側外観。

東側外観。家形の屋根の向きと外壁の素材を上下階で変えて、視覚的なボリュームを周囲に馴染ませている。

架構図

架構図

 

 


AGING WELL SHOW HOME
設計・施工:株式会社野澤工務店


写真:新澤一平 文:久留由樹子