• HOME
  • 物件紹介
  • SE構法施工物件紹介[住宅 16]
耐震構法SE構法について
導入をお考えの皆様
物件紹介
2023.07.01

SE構法施工物件紹介[住宅 16]

川西N邸

資産と住処

ファイナンシャルプランニングのプロフェッショナルが工務店と築き上げた住処のかたち

「川西N邸」は、兵庫県川西市北部の住宅地に建つ戸建て住宅である。建主のNさん夫妻、設計・施工を担当した株式会社ひかり工務店・統括マネージャーの原田隆広さん、企画推進部リーダーの清水結花さんにお話をうかがった。

断熱からデザインへ

ひかり工務店は、2003年に代表取締役の清水洋人さんが創業した大阪府豊中市に拠点を構える工務店である。リフォーム事業からスタートし、のちに新築事業に軸足を移し、良質な断熱性能を謳った注文住宅を手がけ始める。SE構法との出会いは、その時期にパッシブデザインの勉強会に参加したことがきっかけだという。

ほどなく依頼主側から、性能だけでなく、かっこいい、おしゃれな家にして欲しいという要望が頻繁に来るようになった。ちょうどインターネットで誰もが欲しい情報を容易に取得できるようになってきたころである。建主のなかには、設計者・施工者以上の情報収集力を発揮する人たちが少なからずいる。建築設計事務所での勤務経験を持つ原田さんが、清水さんに誘われて入社したのも、そうした背景があったのだろう。現在は、社員総数約40名、年間約50棟を手がける。

 

キッチンからダイニング、庭を見通す。

キッチンからダイニング、庭を見通す。

住宅とファイナンシャルプランニング

Nさんは、大手生命保険会社のファイナンシャルプランナーである。代表の清水さんとは子育てを通じて知り合い意気投合し、現在はひかり工務店の依頼主のファイナンシャルプランニング(以下FP)のアドバイスをするという関係である。

Nさんが勤める保険会社では、顧客の保険の契約内容を最適化するために、ライフステージを通貫したFPを行う。
それはその家族の生涯資産計画から導かれるものだが、ほとんどの人にとって人生最大の支出は住宅取得の際に発生するので、その金額をどれくらいに設定するべきなのかは、保険商品の選定にとどまらず、建主にとっても、さらにはひかり工務店にとっても、共通の重要課題となる。

家族構成とそれぞれの年齢から、生涯にわたっての収入と、いつどこでどのような支出が想定されるかを明確にし、総合的な資産管理とその配分のなかから、住宅取得にどれくらいの支出が可能なのかを決定していくプロセスが、住宅建設に先行してコンサルティングされる。Nさんはそのプロフェッショナルである。

夢や希望を語っても予算が増えるわけではない。性能、デザイン、価格のバランスの取れた家づくりを標榜するひかり工務店にとって、NさんのFPはもはや欠かせないものといってもいいだろう。

 

リビングと和室の接合部分から庭方向を見る。

リビングと和室の接合部分から庭方向を見る。接合部分には分節を意図してスリットが設けられた。

コロナ後の新しい暮らしを見据えて

Nさんは以前は豊中市内の戸建て住宅に住んでいた。コロナ禍でリモートワークが中心となり、それを契機に自らのライフスタイルを見直した。そして大阪の中心部へのアクセスはよいが地価の高い豊中から、自然豊かでより広い土地が入手可能な川西へ転居することを決意した。新築に際し、子どもたちが不自由なく遊べて、夫妻それぞれの趣味の空間や、バーベキューのできる庭も欲しいと原田さんに伝えた。

多様な居場所のある家が欲しいという要望に対して原田さんは、生活のさまざまなシーンや趣味の時間をひとつずつ受け止める独立した箱を用意し、それらを庭を囲むように配列して住宅をつくることを提案した。機能ごと、用途ごとに小さな小屋を建てて、それをつなげたものとも解釈できる。その結果、この住宅は、巨大なボリュームではなく、小さな箱の集合体として、まちの風景に溶け込んだ。

 

左:リビングを見る。右:玄関から庭を見る。

左:リビングを見る。平面は4,095mm角で天井高は4,400mm、FL-350mm。奥に見える和室にはヨガ用のハンモックが設えられている。 右:玄関から庭を見る。

南側外観。

南側外観。いくつもの箱が連なる。左端は和室、その奥がリビング。

 

それらの箱が、独立した形状を保ったまま連結するということは、互いに分節されている関係にあるということである。したがって架構には、それぞれの箱が自立しつつ連結し一体化していることが求められる。箱の角は互いに接することがなく、しかもつながる部分は開口になるので、力の伝達箇所と耐力壁の量ならびにその位置とバランスの確保が難しくなる。ここでは、壁量の多い外周部側と開口部脇の袖壁、接合部の水平構面などを使って剛性を担保している。

もっとも大きな箱は自動車2台分の駐車スペースのあるガレージで、しかも上部に子ども室が載るため、6,400mmスパンに成500mmの梁を910mmピッチで架けている。ダイニングキッチンは5,460mm×5,440mmの箱で、南面に1,560mm幅の吹抜けを設けてパッシブデザインに対応している。西側のリビングは4,095mm角で天井高は4,400mmである。いずれも大きな開口部を持つこれらの箱すべてがSE構法でなければ実現困難な空間であり、そうした箱の集合がこの住宅なのである。

 

南東側から見る全景。

南東側から見る全景。中央の箱はNさんの趣味の部屋である、ゴルフルーム。

ゴルフルームを見る。

ゴルフルームを見る。

 

 

さて、この転居に際してNさんは、マネーではなくライフという資産を重視した。プロとして、顧客に対しては、資産価値の上昇が見込める都心部のタワーマンションの購入を勧めたりすることが多い。しかし、今回の自宅建設においては、違う価値判断をした。

土地と建物は資産価値を有する。しかしそれは、そこで繰り広げられる家族の人生の質よりも上位のものとは限らない。この先の20年、タワーマンションでまちの夜景を見ながら暮らすのと、この家の庭で薪をくべながら星空を眺めて暮らすのでは幸福度が違うと思ったとNさんはいう。FPのトッププロが下したこの選択が、住宅業界に広く共有される思想+メソッドとして認知されていって欲しいものである。。

 

架構図

架構図

 

 


川西N邸
設計・施工:株式会社ひかり工務店


写真:杉野 圭 文:橋本 純