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物件紹介
2023.06.01

SE構法施工物件紹介[住宅 15]

木学 軽井沢の家

エバンジェリストの矜持

高気密高断熱住宅の理想を追求していった先に、
壁体透湿という概念とそれを実現する素材群との出会いがあった。

埼玉県川口市に本社を構えるECO HOUSE株式会社が長野県北佐久郡軽井沢町で手がけた「木学 軽井沢の家」が竣工した。同社代表取締役であり、かつ建主であるGERMAN HOUSE株式会社代表取締役も務める松岡浩正さんにお話をうかがった。

 

リビングからダイニング方向を見る。幅は4,550mm。屋根勾配は2/10。PSの輻射冷暖房パネルでこのスペースの冷暖房をすべてまかなう。天井仕上げは12mmのパイン材。床は20mmのパインフローリング。左の建具は3重ガラスのドイツ製木製窓。壁面はルナファーザー。

 

ドイツ製エコボードとの出会い

松岡さんがECO HOUSEの前身である「ナカジマホーム」を立ち上げたのは1986年、24歳のときである。以前勤めていた株式会社ナカジマからの融資を受けて独立したこともあり、その名前にした。在来工法で建てる工務店だったが、当時はまだ断熱性能に対する認識が高くなく、結露が発生した。それを解決したいと思って北国の住まいに学び、高気密高断熱住宅を手がけるようになる。断熱材と外壁の間を通気層にするという工法を外断熱の専門家たちと始めるが、思ったほど通気しない上に、2000年、放火によって建設中の現場が通気層煙突火災の被害を経験した。そこで松岡さんは、ウレタン系の断熱材の上に胴縁を介して外壁を取り付けるこの工法自体に疑問を抱くようになった。よりよい高気密高断熱住宅を実践していくための優れた建材と工法を求めて、松岡さんは海外視察を重ね、ドイツでGUTEX社の木繊維断熱板「エコボード」と出会う。2002年のことだった。

 

2階からダイニングを見下ろす。

 

透湿する壁

視察を通じて松岡さんはドイツにおける高気密高断熱の変遷を知る。1960年代初頭のドイツでは気密シートを貼る工法がとられていたが、夏場の結露問題を解決できず、1970年代以降は水蒸気の流れを止めてはいけないという方向へ舵が切られた。ドイツの立法制度上、全国一律の規制ではないにせよ、気密性を確保しながら壁面の透湿性を担保するという方向への転換であることは間違いないだろう。エコボードという製品はそうした流れのなかに位置づくものである。間伐材を羽毛状になるほど細かく粉砕しその木質繊維と樹脂分によって固化させたもので、固形化の過程で若干有機溶剤を使用するが、製品化された段階ではすべて飛んでしまうので、完全自然素材とのことだ。強度、遮熱性、防音性、耐水性、防蟻性も確認し、その性能と考え方に共感した松岡さんは、エコボードを輸入するための商社としてGERMAN HOUSEを設立する。2004年には30分耐火の防火認定を取得した。

木造住宅の外周壁面はさまざまな素材のレイヤーで構成されているが、壁面の透湿性を確保するには、それを疎外する素材は使えない。壁面構成素材すべての見直しが必要となった。現在、ECO HOUSEが施工する住宅の外壁は原則として外装用エコボードの外側にモルタル直塗り仕上げである。間柱と柱の間にもエコボードを嵌め、内壁は透湿壁紙の上に水性塗料で仕上げる。開口部は3重ガラスの木製窓である。そしてそれらの素材・建材の大半をドイツから輸入している。製品への信頼とともにGERMAN HOUSEの役割も大きくなった。

また、使用する建材から石油化学製品も排除した。揮発による人体への影響、経年劣化、廃棄時の複合汚染問題などを考慮したからである。彼らの標準仕様を記したHPには「私たちは使いません」という欄があり、その理由を明記し、徹底している。

 

左:階段を見る。ドイツ製の階段の支持架構はアルミダイキャスト製で1段ごとに回転可能。右:2階寝室を見る。

 

体感のための住宅

松岡さんの軸足は、現在、ECO HOUSE=工務店からGERMAN HOUSE=商社へと移っている。自分たちだけがこれらの素材を独占的に使って建物をブランディング化するのではなく、広く多くの人たちにこれらの素材を使って欲しいと考えている。工務店の経営者から環境建築のエバンジェリスト=伝道者として活動し始めたといえる。しかし、環境性能というものは、実際に体験しなければ理解されにくいものである。ECO HOUSEでは現在、木造賃貸集合住宅の施工に力を入れて取り組んでいるという。多くの人に賃貸でこの環境を体験してもらい、新築ないし分譲購入時には温熱環境性能についての知識と経験を持って臨んで欲しいからである。

さて、その集合住宅建設に際して、大工からSE構法を勧められたという。架構に歪みがなく、上層階の施工手間が減るからだそうだ。それ自体コストと時間の削減にもつながることである。松岡さんはかねてから従来の布基礎の脆弱性に疑問を持っていて、SE構法のべた基礎で地中梁から柱を立ち上げられる仕様が耐震性能上特に重要だと指摘する。SE構法選択の根拠も明快である。

 

南側から見る全景。外壁は厚15mmの木製サイディング。屋根勾配は1/10。

南側テラスを見る。

 

この「木学 軽井沢の家」も環境性能体験のために建設された建物である。軽井沢に建設したのは、ここが寒冷地だからである。極寒のときにこそその性能を体感して欲しいと考えた。

間口12,740mm奥行10,920mmの矩形平面で、東西南北に正対する。外装は、左官職人の手配の関係で、モルタル塗りではなく15mm厚の木製サイディングとした。南側には大きく軒の張り出したテラスが設けられている。テラスに向けて設けられた建具が開き戸なのは、ドイツ製の3重ガラスの木製窓だからである。

冷暖房はPSの輻射冷暖房パネルを室内のところどころに配置してまかない、空調機も床暖房もない。これには驚かされたが、性能に対する揺らぎなき自信を感じる。

素材、部品、工法、構造、温熱環境に至るまで、独自の思想を徹底的に突き詰めた住宅である。

 

架構図

 

 


木学 軽井沢の家
設計・施工:ECO HOUSE株式会社


写真:上田 宏 文:橋本 純