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耐震構法SE構法について
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物件紹介
2023.05.01

SE構法施工物件紹介[住宅 14]

中泉町コンセプトハウス

総合力の大空間

深い軒の出を実現する垂木と合板、大面積の壁面を支える胴縁など、基礎や柱梁に加え、 建築の各要素が構造計算に加わって実現された大空間。それをSE構法の総合力が可能にした。

「中泉町コンセプトハウス」は、渋沢テクノ建設株式会社が展開する住宅ブランド「icocochi」の、販売を前提としたモデルハウスである。 同社チーフプランナーの佐藤真幸さん、住環境プランナーの坂本周泰さんにお話をうかがった。

 

リビングからキッチン方向を見る。左奥は寝室・水回りに連続する。

 

平屋と学校区

敷地は、JR高崎駅から北に約6km、交通量の多い県道25号線から150mほど脇に入った住宅地内にある。中心市街地から遠いこの地が選ばれた理由はふたつある。

ひとつは平屋をコンセプトに据えたこと。地価の高い中心市街地では実現が難しいことだ。平屋への問合せは以前から一定数あったが、昨夏からそれが急増したという。潜在ニーズが顕在化してきた背景には、住宅に対する社会認識の変化が影響している。高齢世代だけでなく、子育て世代においても、いずれ子どもが独立すれば子ども部屋は要らなくなる、自分たちが歳を取って足腰が衰えれば階段の上り下りで苦労するだろう、見栄を張らずにコンパクトに暮らしたい、耐震性は平屋のほうが高い、といった暮らしのさまざまな現実を直視する人が増えたのである。それゆえ平屋に住めるなら平屋のほうがいい、と考える人たちが増えるのは当たり前のことなのだ。また、コロナ禍でリモートワークが広く導入され、住まいの場所と働き場所の結びつきが弱くなり、それまで都会の集合住宅に住んでいた人たちが、住み替えに際してのびのび暮らせる郊外で平屋を希望するのもわかる話である。

もうひとつの理由は、現在このエリアが子育て世代に人気の学校区であること。近くにある高崎市立堤ヶ岡小学校の児童数増加により、分離新設校として桜山小学校が2009年に開校する。その建設に際してプロポーザル先進県である群馬県は、公開プレゼンを経て著名な建築家に設計を委託し、斬新で魅力的な校舎が完成、注目を集めたことが大きい。この学校に子どもを通わせたいからこの地区に住みたい、という住宅需要が喚起された。当然、そうした教育熱心な親は住まいに対する理解や認識も高い。内覧会に訪れる際も予習を怠らない。厳しい目も持っているが、それに見合うものを提示できれば、彼らの心をつかむ道筋は見えてくる。今や住宅地開発、さらにいえば近隣住区論の成否は学校建築の良し悪しに左右される時代になった。

 

左:キッチンからライブラリースペース、水回り、主寝室への空間の連なりを見る。右:リビング北側、輻射冷暖房装置によって分けられた空間。モデルハウスなので、この部分は仕切って個室にすることも可能。正面奥にもロフトを設け、個室をつくれる場所をいくつか用意している。

 

icocochiを始める

渋沢テクノ建設は、1978年に店舗の設計施工を請け負う「渋沢店舗」として創業、現在は、それに加え住宅部門の「icocochi」、リフォーム部門の「シブテクリフォーム」、マンション建設から展開した土地活用部門の「シブカツ」の4つの部門をもつ企業である。

注文住宅事業は2008年から始め、当初からデザインに重きを置いて展開していたが、近年は顧客も、デザインだけでなく生活動線や収納、耐震性能や断熱性能といった機能面の充実とエビデンスを求めてくる。そこで住宅性能の自社基準を一新し、2015年、SE構法を標準仕様に加えた新ブランド「icocochi」をスタートさせた。つまり全棟SE構法のブランドである。

 

左:玄関からサロンを見る。光の注ぐ2,000mm×2,500mmのコージーコーナー。床レベルは1FL-100mm。右手がリビング。 右:テラスからサロン、玄関方向を見る。軒の出が1,820mmあるので、室内とテラスの一体的な利用も可能である。

 

SE構法でなければできない大空間をつくる

さて、群馬県は他県に比べて耐震性能に対する意識がまだまだ低いと聞く。これまで大きな地震災害に見舞われてこなかったのは幸いというしかないが、そうした社会環境で、平屋にSE構法を採用するとなると、耐震性+αの説得力が求められる。そこで佐藤さんたちは、SE構法でなければ絶対できない空間をつくるという方針を立てて踏み出した。

敷地は南側接道で、平面形は南東側に駐車場と庭を囲むL字形である。東端の玄関を入ると、南側にサロンと名づけられた小さなアルコーブがあり、タイル貼りの床仕上げが玄関からサロン、リビングを通ってテラスにも張り出しながらキッチンまで至る。床仕上げを変えた部分を土間と呼んでいる。本来の土間仕上げではないが、床仕上げを変えるだけで、そこに暮らしのアクティビティの変化が現れることに期待している。

リビングダイニングは天井高4,000mm、6,400mm×6,450mm角の無柱の大空間である。天井高がすでに一般的な流通材の材長寸法3,600mmを超えているから、そもそも通常の在来工法では建設不可能な空間である。

さて、この天井高の空間を支えているのは柱梁だけではない。軒を出さなくては夏場の日射遮蔽ができない。そこで南側には、酷暑期の太陽の南中高度の平均値から算出した1,820mmの出の軒を、垂木と合板で固めた面で持ち出している。加えて気積の大きな空間なので、冷暖房には輻射冷暖房も採用した。

一方で北面は冬場の空っ風による耐風圧を考慮しなければならない。2階レベルに床がないため、部屋の両端に120mm×240mmの平角柱を2本、南北を長軸として配置し、リビングの壁面に補強の柱形が出ないようにするために、その両端の平角柱の間に、FL+2,000mm~2,500mmの高さで150mm×500mmという梁より大きな横胴縁を入れて解決した。各部位に高い強度を持たせることのできるSE構法の、まさに総合力が結実した大空間である。

 

南側全景。左手前が寝室ゾーン。その屋根越しにLDKのハイサイドライトが見える。

架構図

 

 


中泉町コンセプトハウス
設計・施工:icocochi 渋沢テクノ建設株式会社


写真:新澤一平 文:橋本 純