十人十色の要望を安全に実現する

建主の要望に応えたデザインを提供し続けるには、在来工法を超えた安全な構造躯体が施工者には必須となる。SE構法との出会いは必然であった。

「仏生山モデルハウス」は、センコー産業株式会社が香川県高松市の分譲住宅地に建設したモデルハウスである。同社「Cocoro設計室」の山内隆司さんにお話をうかがった。

LDKを見通す。奥のキッチンの左手はパントリー。

多様さへの対応

センコー産業は1976年に創業し、現在は香川県下で注文住宅、分譲住宅、仲介事業を展開する企業である。地域密着型企業を標榜し、顧客の要望に応える注文住宅を請け負ってきたが、昨今は建主側もインターネットを介してさまざまな情報を得てから依頼をしてくるので、その千差万別な要望に応えていくためには、幅広いデザイン力が求められるようになってきた。その多様性に自社の設計士だけで対応し切ることは大変である。そこで彼らは「建築家とつくる家」づくりも始めている。
工務店のデザイン・ブランディングでは、自社のテイストを掲げてそれに共感した顧客の住宅を請け負うケースが多いが、センコー産業はその逆で、顧客の多様な要望には建築家とのマッチングで応えるものとし、そこでは自社の色を出さない施工者に徹する立ち位置をとった。
現在、注文住宅部門は、その「建築家とつくる家」に加えて、自社設計、「ソラマドの家」という提携する岡山の設計事務所に依頼するパターンの3本立てで、自社の色の見せ方を変えたラインナップをとっている。

玄関からリビングと土間の吹抜けを見る。土間は奥で右手（南側）に広がって、リビングの一部を形成し、薪ストーブの設置も想定した天井の高い空間となっている。

玄関を見る。2,730mm×2,275mmの広さがあり、自転車やアウトドア用品などを置くことも想定している。

洗面脱衣室を見る。2,275mm×2,730mmの広さがあり、室内干しスペースとして使うことも想定している。左奥はファミリークローゼットで、玄関につながっている。

Cocoro設計室とSE構法

Cocoro設計室とは、センコー産業の注文住宅部門のひとつで、SE構法を専門に扱う部署として2021年春に稼働を始め、今回の仏生山モデルハウスが最初の物件となる。
建主の要望に添うように設計事務所と家づくりをしていると、大きな開口や大スパンなど、構造に負担のかかる箇所のある物件が出てくる。これまでは設計事務所による壁量計算で対応してきたが、施工者としてはより確実に安全な構法で工事をしたい、それをこれからの方向性として位置づけたいと考え、以前から興味を持っていたSE構法の登録加盟店となった。

コンテンツを可視化し耐震等級3で支える

建物は、9,100mm×9,100mmの正方形平面で、外形をボックス形状にしたので屋根は陸屋根である。南側正面には幅4,095mm×奥行1,365mm2層分のアルコーブがあり、そこがテラスとして内外をつなぐように配置されている。玄関扉はテラス西側に設けられ、玄関には2,730mm×2,275mmのゆったりとした土間が広がる。自転車やアウトドア用品などを置くことを想定したという。玄関ホールの北側からファミリークローゼットを経由して広いランドリースペースへと直接アクセスができるようになっている。LDKと連続した回遊型の平面にもなっている。2階は、現在は主寝室とフリースペースとしているが、子ども室のつくり方は購入者の要望に応じて改装していくことになる。
土間は、玄関からLDK側にも連続して縁側のような空間を形成し、さらにその東側ではリビングの一部にもなっていて、薪ストーブも設置可能である。上部を吹抜けにし、北側のLDKへと無柱空間が広がっている。開放的でありながら耐震性能が高く、温熱環境としても優れ、LCCM住宅への展開を視野に入れたモデルハウスづくりである。自分たちの色を押しつけないセンコー産業のいえづくりにとってこのモデルハウスとは、デザインテイストの表明ではなく、昨今の住宅購入希望者が体験してみたいと思っているライフスタイルや住宅スペックの具体的なコンテンツ提示であり、それらを実現した場合の空間による可視化である。それゆえ南側の土間吹抜けとLDKの無柱空間を、SE構法を用いて耐震等級3で実現してみせることがこのモデルハウスのもっとも重要な意図となったのである。

架構図

南側ファサードを見る。全体はボックス形状で、前面のテラス部分が内側に入り込んでアルコーブを形成している。玄関はその左側面に設けている。

仏生山モデルハウス
設計：センコー産業株式会社一級建築士事務所
施工：センコー産業株式会社

写真：新澤一平　文：橋本 純