SE構法施工物件紹介[住宅 9]
材径の異なる架構材を、仕上げ方で調整して見せたり消したりしながら空間の質を整える。 この、かつての新興数寄屋の「真壁大壁」のごとき手法は、SE構法による空間の新たな表現手法と位置づけられる。
「狼谷の家」は、東京都渋谷区に建つ3階建ての住宅である。設計者で建主の坪沼一希さんと五ノ井麻衣さん夫妻、共同設計者であるSURF Architectsの平木康仁さんにお話をうかがった。
家敷地は、東京都心部に位置する間口4,800mm弱の狭小地だが、幅員4mの道路を挟んで南側には公有地の緑地が広がる静かな環境である。間口寸法から建物には幅3,640mmの門型フレーム架構を用いることが合理的であることが想像された。SE構法はそれに最適な構法として選ばれた。 土間が欲しかったので、1階にはピロティと土間玄関とWICを配置した。多用途な使い方が可能であること、将来は部屋に改装することも視野に入れての判断である。1階に居室を設けないことで階高を抑えることもできた。
2階はLDKで、ダイニング上部を吹抜けにし、3階には南側に浴室、北側に寝室を設けた。吹抜けを設けたのは、奥行方向が10,465mmと南北に長い平面で、北側が暗くなることが予想されたからである。頂部にトップライトを、東面にも大きな開口を設け、十分な採光を確保した。2、3階はこの吹抜けを中心にした一室空間に近い構成である。子ども部屋はまだ用意されていない。育てながら考えるということだ。寝室が3階でWICが1階なのは、以前に住んでいた集合住宅で日当たりの悪い部屋を収納にして暮らしていた経験から、寝室と収納を分けるライフスタイルを踏襲したからである。
南側4間分は、1階をピロティ、2階は緑地側に開かれたリビング、3階を浴室にしたので、120mm×240mmの平角柱に成390mmの梁を架け渡した門型フレームによる架構とし、階段から北側は通常のSE構法の架構である。ただし910mmモジュールではなく、階段とダイニングのサイズに合わせてスパン割を調整している。短辺方向に梁を架け渡す関係上、階段の向きは梁と平行になる。勾配や幅をゆったりとるためには、踏面と蹴上げの寸法だけでなく踊り場を設けて折り返したり、梁間の寸法を広げて調整する必要があった。ダイニングの幅は、新調したテーブルの向きを90度回転しても使えるように調整して2,110mmとした。
小さな住宅ゆえ、部材寸法や見付けや見込み、チリに至るまでディテールの出来が空間の質を左右してしまう。この住宅では、そうした細部への追求が随所に見られる。まず、LDKの空間的な一体感を保持するためにはリビングとダイニングの間に置いた階段の存在感を弱める必要があり、そのためささらを鋼製にして見付け寸法を抑え込んだ。床にベイマツ材を使っているのは構造躯体と素材を揃えたかったからだという。吹抜け回りの床の小口には、階段と同じ溶融亜鉛メッキを施したアングル材を施して合板端部を隠している。ダイニングの壁には造作のベンチを設け、その座面を階段の踊り場と揃えている。
仕上げに現れてくる木材、鋼材などの見え方をひとつひとつ吟味しながら調子を揃えることに注力している。架構も、門型フレーム部分と通常のSE構法部分では材径が異なるが、それを利用して構造材が真壁的にみえるところと大壁として隠すところを仕上げで調整している。
これは新興数寄屋の重鎮・吉田五十八が用いた「真壁大壁」という表現手法を想起させる。 吉田五十八は数寄屋の線材の多さを仕上げに飲み込ませ、面性を強調することが主眼だったが、この住宅では、それに加えて多様な素材の表出をディテールや色味で調整している。まさに現代の数寄屋の手法である。
狼谷の家
設計:坪沼一希+五ノ井麻衣+SURF Architects
施工:株式会社山菱工務店
写真:関 拓弥 文:橋本 純