SE構法施工物件紹介[住宅 5]
そもそもモデルハウスとはなにを伝えるためのものなのか、という問いに対しアムキットホームは、建物にとってもっとも重要な骨格であるSE構法の魅力や可能性を伝えるための道具だと語る。
アムキットホームとは、株式会社東産業の住宅事業ブランドである。三重県四日市市に完成した新しいモデルハウスのコンセプトについて、同社の伊藤貴哉さんと濱谷藍子さんにお話をうかがった。
東産業の企業コンセプトは、「見えない、だから、こだわる。」である。アムキットホームはインフラの維持管理業務に携わる企業が立ち上げたブランドだからこそ、住宅の見えない部分、つまり構造や安全性を重視することを方針とした。それゆえ内部の議論において、在来木造の壁量計算の曖昧さに対する疑問がすぐに生じた。以来、安心して勧められる構造体システムとの協働を模索していた。 SE構法との出会いは、濱谷さんが書店で手にした『ML welcome』がきっかけである。そこに掲載されていたSE構法の住宅の吹抜けと大空間などの実例を見て、最初、伊藤さんは、純粋な木造であるはずがないと疑った。そこでふたりは、SE構法の本質を確認するために、説明会に参加した。 納得して登録施工店となった段階で、在来工法はいっさいやらないと決めた。顧客に対して、予算がないなら在来でというのでは、安心安全を提供する企業として筋が通らないからだと、伊藤さんは力説する。
全棟をSE構法で建設すると決めたアムキットホームは、重量木骨の家プレミアムパートナーとなる。そしてSE構法の可能性を満載したモデルハウスを建てようと、SOWE Designの勉強会に参加した。 そこで省エネ住宅の第一人者、野池政宏さんの見識に触れ、パッシブデザインの側面から監修を依頼した。 指摘を受けたポイントは主に窓の大きさと開け方だった。十分な採光と適切な遮熱、全方位からの通風を確保するために窓と壁の配置を調整し、必要な箇所には外付けブラインドも付設した。
アムキットホームのHPには、「お客様の新居を使っての営業活動はいたしません」「お客様の住まいを施工事例として公開しません」とある。完成見学会あるいは内覧会に類することは行わないという。顧客のプライバシーを重視するというのが第一の理由だが、もうひとつ別の理由もあった。注文住宅は建主家族のライフスタイルや好みが反映され、他の人の感性とは一致しないのが一般的だから、新築に際して先入観を持たずに家づくりに取り組んで欲しいという願いからだ。 アムキットホームの実作に触れるためにはこのモデルハウスを見学することになるのだが、ここも特定のライフスタイルをイメージさせるデザインにはしていない。先述の通り、アムキットホームにとってのモデルハウスは、SE構法の可能性を最大限伝えるためのツールとして機能している。 建物本体より目立つ間口約7mの大スパンのインナーガレージを前面に設けてSE構法のメリットを強調し、LDKの吹抜けに複数の梁を架け、あえて現しとしている。
モデルハウスでSE構法に直接触れて納得してもらい、申し込みをした顧客には「1,000の質問」と呼ばれるヒアリングシートに記入を依頼し、綿密に要望を聞いた上でプランを描く。伊藤さんたちはそれをハードとソフト、骨格と化粧の関係と位置づけている。つまり、しっかりと体幹を鍛えた上で、好きな服を着たり髪形にしたりお化粧をして欲しいという考え方である。 住宅建設をシステムとしてみたとき、骨格と化粧は渾然としたかたちではなく、それぞれを独立して存在しているのだから、顧客に対してもそのように秩序立てて説明するべきだというアムキットホームのコンセプトがここに具現化されている。
アムキットホームモデルハウス
設計・施工:株式会社東産業アムキットホーム
写真:新澤一平 文:橋本 純