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耐震構法SE構法について
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物件紹介
2023.03.31

SE構法施工物件紹介[住宅 13]

徳善寺新本堂・庫裏

仏教寺院といえども決して不変ではなく社会の要請に応じて変化し続ける存在である。 とりわけ都市部では変化が速く大きくなる。その最前線にSE構法を用いた3階建ての本堂・庫裏が誕生した。

徳善寺は、兵庫県神戸市須磨区に建つ浄土真宗本願寺派の寺院である。2022年4月に新本堂と庫裏が完成した。坊守の安積佳代さんと、設計・施工を担当した株式会社伊田工務店営業部営業部長の植田直樹さん、設計部設計課長の井上春彦さんに話をうかがった。

都市の新しい寺院

徳善寺は1952年の創建の比較的新しい寺院である。初代が建てた本堂と庫裏は1995年の阪神・淡路大震災で全焼したが、第2代住職がすぐに再建を果たす。
現住職の釋義龍さんは第3代として2002年に着任し、2011年に本堂の南側にRC造の納骨堂を建立する。震災を経て古くからの門徒も少なくなっているなかで納骨堂を建てたのは、神戸に住みながら故郷の墓を維持し続けることの困難さを実感する人が増え、墓じまいを経てこちらの納骨堂へ遺骨を納め直したいという要望に応えたからだという。

 

内陣写真

内陣から外陣方向を見る。左側は隣接する納骨堂まで見通せる。左端の竪繁障子のなかは待合。

 

墓参りという歴史的風習と、昨今の都市部への人口集中という現実を重ね合わせれば、今を生きる者が墓所を身近な都市部に引き寄せても、先祖を敬う気持ちに代わりがないのならばそれでよいではないか、という教えである。都市の寺院の果たす今日的役割の一面がこの納骨堂であった。
納骨堂をRC造で建てたのは、この地が震災で大きな被害を受けた場所だからに他ならない。2代目の本堂が庫裏の2階につくられたため、納骨堂にエレベーターを設置してアクセスをよくし、いつでも気軽に墓参りができるように、カードキーによる入退管理システムも導入した。
しかしRC造を選択したことで、埋蔵文化財への対応など、想定外の出来事も発生した。なので今回の本堂・庫裏の建て直しに際して、再度RC造を選択することはなかった。

 

納骨堂、アプローチ写真

左:3階納骨堂。 右:既存納骨堂の脇に設けられたアプローチ。

 

一方で以前の庫裏は、震災直後の突貫工事が遠因の不具合が散見された。強度とスピードだけが優先され、温熱環境や間取りが熟慮されておらず、代替わりして家族構成が変わったときに問題が生じた。
伊田工務店とは、副住職が住宅専門誌『モダンリビング』で見て連絡を取ったことに始まる。当初は庫裏のリノベーションの相談から始まったが、今後も需要が想定される納骨堂の増床を視野に入れて、3階建ての新築とすることとなった。重量木骨の家プレミアムパートナーズのメンバーである伊田工務店は、神戸の工務店として耐震性 能を特に重視する姿勢を堅持している。木造3階建ての本堂・庫裏はまさにSE構法に最適案件であった。

 

西側全景写真

西側全景。屋根勾配を低く抑え、軒を張り出して水平性を強調している。右手は既存の納骨堂。

 

RC造の納骨堂に接続するSE構法の本堂・庫裏

敷地は南西の角地で南北に長い。1階が庫裏、2階が本堂、3階は納骨堂にすることを前提に計画された。
外観は、隣接するRC打放しの納骨堂が竪リブで垂直性を表現しているのに対し、屋根勾配を3寸とし軒の出を強調し水平性を意識した形態でまとめている。伝統的な寺院建築のように大屋根を見せなかったのは、今日の寺院建築の意匠的方向性として、納骨堂同様、住職夫妻がモダンデザインを意識的に選択したからである。
玄関が納骨堂北側の奥まった位置にあるのは、旧本堂・庫裏の玄関位置を踏襲したからで、納骨堂の軒下をアプローチとして再整備した。玄関を入ってすぐ右手は3階までつながる避難階段を兼ねた 階段室で、竪穴区画が求められるため鉄扉である。左手はまっすぐ進むとリビングへ、左脇にはユーティリティとキッチンにつながる引き戸がある。L字形のLDKにユーティリティを加え、田の字形のコンパクトな回遊動線が形成されている。

 

LDK写真

1階LDKを見る。左の壁は湿式の鏝仕上げ。

ダイニング、玄関写真

左:ダイニングからキッチン方向を見る。 右:玄関を見る。右は3階まで通じる階段、その左はリビングへのアプローチ。

 

2階は本堂である。内陣が広く外陣が小さい。内陣は両脇に余間を設け浄土真宗寺院の平面形式を保持し、格式ある仏事を執り行うことができるように配慮されている。一方で外陣のサイズは都市の寺院の役割を重視してコンパクトにまとめた。
内陣と外陣の間には結界を形成する欄間や柱がない。天井面もフラットで連続している。天井高が外陣で2,400mmと低いこともあるが、欄間や柱を用いると、その形状や素材、寸法などで寺の格を計られてしまうことがあり、住職にとってそれは本意ではなかった。宗教空間とは本来は物質的価値ではなく精神的価値が問われる場所だからであり、その点において白く抽象性の高い近代建築の意匠との相性は悪くない。この本堂には、そうした現代の都市寺院のあり方が反映されている。
外陣の背後には組子障子で仕切られた待合があり、その奥でエキスパンションジョイントを介して既存納骨堂と接続している。
3階は納骨堂である。本尊を安置する内陣上部は避けて、外陣および廊下部分の上部に設けられている。納骨壇を整然と高密度に配置するために、間口6,825mm奥行6,135mmの無柱空間がつくられた。ここが最大スパンである。その姿はまるで集合住宅が建ち並ぶ近代都市のようであるが、それはあながち比喩でもない。
戦後、不燃化や土地問題を背景にRC造の都市寺院が多くつくられた時代があった。しかし、堅牢で温もりのある木質空間設計技術の向上は、今後、中高層都市寺院の木造化を促進させるだろう。寺院建築の木造回帰である。徳善寺はSE構法によるその先行事例である。

 

架構図

架構図

外観写真

南側から見る全景。震災後20年を経たまちなみ。

 

 


徳善寺新本堂・庫裏
設計・施工:株式会社伊田工務店


写真:杉野 圭 文:橋本 純