SE構法による経営活用法 vol.3
当社は2003年の設立当初はリフォームが中心でした。少しずつ新築事業へシフトしていく過程で考えたのは、「他社と同じことをしない」ということでした。大手ハウスメーカーと同じことをしていても選ばれるはずもありませんし、パワービルダーと同じことをしても価格競争に巻き込まれてしまいます。
そこで当時まだ一般的ではなかった外張り断熱に着手し、高断熱住宅を手がけるようになりました。その頃は断熱に関心を持つお客様は決して多くはありませんでしたが、明確な特長を打ち出すことで、他の会社と競合することなく受注を重ねていくことができました。
しかし、国が省エネ基準を義務化するという方針が具体化し、どこでも性能に力を入れてくることが予想される状況に。このままでは当社の存在が埋もれてしまいます。ちょうどそのタイミングでデザインセンスに恵まれたスタッフとの出会いもあり、建物の意匠、デザイン性の向上に注力することになりました。
さっそく自社のウェブサイトでもデザインを前面にアピールする内容に変更。切り替えたその月から、一気に問い合わせが増えました。デザインがよくて性能も高い、でも価格は大手ほどにはならない。そんな家がお客様に求められていたのだなあと実感しました。
「他社にない特長を打ち出す」「顧客のニーズに応える」ということが、生き残りのためにはなにより大切なことなのだと学びましたね。
顧客層も変わりました。お客様の平均所得が200万円以上高くなり、要望のハードルも上がってきたので、当社としてももう一段階、成長していかなくてはならない。そんなときに、パッシブデザインの勉強会を通じて出会ったのがSE構法でした。
パッシブデザインは、敷地それぞれの条件を考慮して設計に落とし込む、いわば「一品生産」。大量生産には向かないので大手が手を出しづらい分野です。逆に地域のことをよく知る、当社のような地場のビルダーの強みが生かせると考えています。
そしてSE構法は、しっかりと耐震性が計算された安定感あるフレームで大空間を確保できて、その分、設計の自由度が高められる。たとえば、大阪の都市部における狭小住宅地の木造3階建てなどにはもってこい。日が当たりにくい敷地でもパッシブデザインとSE構法という組み合わせなら快適な住宅が提案できるというわけです。
当社の顧客エリアは、大阪府のなかでも「北摂」と呼ばれる池田市・茨木市・吹田市・摂津市・高槻市・豊中市・箕面市などの比較的、富裕層の多い地域です。そうした意識の高いお客様には、パッシブデザインやSE構法の話は、反応よく聞いていただけますね。
2020年秋に本店新社屋、2023年には支店をSE構法で建てました。大きな吹き抜けなど大空間が実現できたので、お客様には、RC造ではなく木造であることを伝えると驚かれますね。当社ではこういう空間も可能なのだという、いいアピールになっています。
現在、当社の年間の新築受注は約40棟ペース。いまはSE構法はデザインや耐震に強いこだわりのあるお客様に向けて心強い選択肢となっています。今後は、標準的に採用できるように、もっと社内でSE構法の強みや生かし方を研究していくつもりです。
お客様は、約8割がインスタグラムなどSNSを通じて、当社の住宅事例を見てアプローチしてきます。その期待を裏切らないように、新社屋はSE構法でセンスよく設計し、スタッフの服装にもドレスコードを設けました。自社のブランドイメージを徹底することをとても大事にしています。
Youtubeなどの配信動画も社内で製作。そうした発信、広報の業務のため、企画広報専任の社員を数名配属しています。お客様に関心を持ってもらい、集客につなげる企画広報の仕事は、営業や設計、工務と同じくらい重要。専任の社員でないとつとまらないというのが私の考えです。
こうした発信、集客、営業、プレゼンに至るまでのすべてのプロセスにおける社員の振る舞い、会社の姿勢をお客様は見て、契約するかどうかを判断しています。家がいいから、プランがいいから、というだけではないのです。いわば「トータルパッケージ」として、この会社と付き合いたいと思ってもらえなければ受注することはできません。
当社では、家づくりの先にある「家族の明るい未来」をテーマに、ミッション(使命)、ビジョン(展望)、コアバリュー(理念)についてそれぞれメッセージを定めています。それらに共感できる社員しか採用していません。徹底して価値観を明確に確立、実践することで、お客様に信頼いただく。そのような会社を目指しています。
売り上げ的には中古マンションと戸建てのリノベが3割、新築住宅建設が7割という感じですが、これからはリノベをもっと伸ばしていくつもりです。もう全国的に新築棟数の減少は避けられないでしょうから、少しでも早いうちにリノベ事業にシフトして、リノベならではのノウハウを蓄積していなければ。
ですから、新築でお問い合わせのあったお客様に対しても必ずリノベのお話はしています。以前は北摂でも土地込みで5,000万円前後で家を建てられたのですが、現在はその価格では難しくなっています。
当社のフルリノベは3,000万円前後が目安。決して安くはありませんが、中古住宅+リノベという形なら、新築よりお手頃な価格で実現できます。それでも予算的に厳しいようなら、中古マンション+リノベという選択肢もご提案しています。北摂なら、中古戸建ても中古マンションも多くの物件がありますから、こういうスタイルも可能なのです。
住宅ローンが通って、当社のデザインによる素敵な空間に住めるのなら、中古物件でも構わないというお客様は少なくありません。いまの30代くらいのお客様はとても合理的で、中古物件に対しての抵抗感があまりありません。「中古でもリノベできれいになるなら問題ない」と判断される方は本当に多くなっています。
もしかしたら、フルオーダーの注文住宅が難しければ、セミオーダーの規格住宅という手もあるのかもしれません。でも当社のデザインが気に入ってこられるお客様に予算が合わないから規格住宅を勧めたとなると、きっとがっかりさせてしまうでしょう。
そうではなくて、予算が合わなければ、中古戸建て+リノベや中古マンション+リノベをご提案しています。これならどちらも当社のオリジナルデザインを楽しんでいただけます。ひかり工務店の価値観、ブランドを気に入ったお客様に満足していただけます。他社と比べられることもありません。
今後、重要になってくるのは人材育成。パッシブデザインは画一的な設計手法では実現できません。敷地条件を考慮し、お客様の要望を満たし、意匠性も高めていく必要があります。設計担当者だけでなく、家づくりに携わるすべての社員が確かな見識と実力を身につけていかなければなりません。
そのためにも当社では、それぞれの業務に応じて必要な経験を積ませてから、一人前として仕事を任せるようにしています。いまの若いスタッフは意欲が高いので、しっかり基礎を学ばせるとその後の成長が格段に違いますね。
そのようにして会社全体の底上げを図ることで、価値観の共有がさらに徹底され、ブランドイメージも高まっていくはず。予算内で最高のデザインと性能を提供する。そのためには、業界の固定概念にとらわれず、常に新しい技術や工法、建材、意匠などを取り入れる。こうした姿勢を貫くことで、社員を離職させることなく、成長し続けられる環境を生み出す。これが、社長としての私の仕事だと思っています。
社会も住宅業界もどんどん変わっていきます。かつては主要な顧客であったファミリー層は減少し、DINKS、単身世帯向けの事業にも着手してかなければなりません。またこれまで扱ってこなかった非住宅木造の受注も課題になるでしょう。
柔軟に事業を展開させることができるような体制、組織を構築していくことを、これからの目標としてとらえています。
取材:2024年1月29日
株式会社ひかり工務店
代表取締役 清水 洋人
設立:平成15年3月1日
住所:大阪府豊中市服部西町1-2-19
https://www.hikarikoumuten.com