SE構法による経営活用法 vol.2
私が日本で結婚し、移住したのが1991年。それから紆余曲折ありましたが、建築の仕事を始め、AC15を法人化したのが2007年になります。最初はひとりで輸入住宅の建築に取り組んでいましたが、徐々に仲間を増やして、現在は私を含め6人のスタッフで建築事業に取り組んでいます。
売り上げでいうと、リノベーションと新築でほぼ半々。新築事業では年間3~4棟くらいのペースです。以前は紹介受注が9割を占めていましたが、近年は自社のサイトからの問い合わせも増えてきました。
リノベーションでは既存の空間に合わせないといけないので、既製品のシステムキッチンではうまくおさまらないことが多く、毎回のようにオリジナルキッチンを造作してきました。お客様にも喜んでいただいていましたし、私としても「家づくりはキッチンから」という強い想いがあります。
そこで2022年3月には新潟市内で集客の拠点としてキッチンショールーム「BEST KITCHEN STORE」をオープンし、その2階に本社も移すことにしました。
つまり、オリジナルキッチンをアピールする場をつくろうと考えたのです。競合他社との違いも打ち出せますし、何よりキッチン空間が好きなお客様にこの場を広め、オリジナルキッチンを作れることを知っていただけたら、期待以上・想像以上の喜びを提供できると思いました。実際、成約率は飛躍的に向上しました。オープンから1年半が経過して、この戦略は正しかったと実感しています。
このショールームでは2カ月に一度のペースでイベントを開催しています。最近、好評だったのはイタリアとキッチンをテーマにしたイベント。アルファロメオとフィアットのディーラーとコラボして、イタリア車の試乗会とピザづくり体験会を同時に行いました。
SE構法との出会いは、10年前に自宅を建てたときまでさかのぼります。ビルトインガレージのある開放的な3階建てを計画していたのですが、構造設計事務所からは「在来でも2×4でも木造では無理」と言われてしまいました。
そんなときに見つけたのがSE構法でした。スパンが飛ばせて開口部を大きく取れるし、耐力壁などの制限を受けにくく構造の自由度が高いので、私がやりたいことをすべて実現できました。そこでSE登録工務店になりました。
しかし、しばらくの間、SE構法はあくまでオプション。それは「デザイン(意匠)の自由度を確保するためのもの」という認識しかなかったためです。
この考えが覆ったのは、4年前。尊敬している同業の社長さんに次のようなアドバイスをいただいたのです。「リチャードさん、あなたの言うようにデザインはとても大事。でも住み心地が悪かったら、お施主様はそんなことどうでもよくなる。デザインだけでは満足していただけないよ」と。
この言葉を聞いて、私は殴られたかのような衝撃を受けました。自分がこれまで心血を注いで追求してきたことは、自分の自己満足でしかなかったのです。
お客様にとって、デザインって出来上がるまでが楽しい。だから完成した直後に建物を眺めて悦に入ることはあっても、その感激はだんだんと薄れていく。建てた後は、どんなお客様でも住み心地が大事になります。夏に涼しく、冬に温かい。そして自然災害に対して安心して暮らせる。そういう住み心地のいい家は、住んだ後でも、お客様から「満足している」というお声をいただいています。
それ以来、家の性能を考えるようになりました。全棟耐震等級3で高気密・高断熱を標準仕様にすること。それには、SE構法が最適解。だから現在、当社ではSE構法の家しか建てません。在来工法に替えて値下げしても、それは目先のことでしかない。例えば、断熱性能はHEAT20のG2レベルを最低の基準とし、気密性もC値0.5未満をお客様に約束しています。
新潟県は積雪地域が多いですから、改めて性能にこだわる必要があると感じています。
引き合いのあったお客様とは1、2回面談をして、さらに土地があるときは現地にも足を運びます。でも、このタイミングで図面や見積もりは出しません。大まかなアイデアやイメージを手描きで描いて見ていただきます。もし、さらに先に進むことを希望されたら、当社で実施する勉強会に参加してもらいます。
この勉強会が受注の決め手となります。私がお客様とマンツーマンで約90分向き合い、家づくりの方針についてお伝えします。「人生の目的とは?」「家は何のために建てるのか?」という問いかけから始まり、家族がずっと幸せであり続けるためには、デザインはもちろん性能も大切だということを説明していきます。そのうち、4分の1がSE構法の話ですね(笑)。
地震から暮らしを守るために構造が重要であること。でも日本では4号特例があり、在来木造では耐震性が必ずしも確保されているとは限らないこと。SE構法は全棟で許容応力度計算を行っていて裏付けのある強さがあること。だから当社ではSE構法しか使わないのだということ。以上のようなことを、エヌ・シー・エヌの資料なども使って、丁寧にご説明します。ここで私たちとお客さまの家づくりに対する価値観を擦り合わせていきます。
この勉強会に参加してくださったほとんどの方は、私たちの家づくりの姿勢に共感していただけます。そして、具体的なプランニングをご希望されるお客さまには、この時点でデザイン契約を提案させていただいています。
一定額の契約料を支払っていただき、細かいヒアリングを繰り返し、図面と見積もりを作成してプラン提案するという仕組みです。お客様も本気、私も本気。非常に密度の濃い、楽しい時間が過ごせます。お互いに納得のいくプランにたどりついたら本契約となります。
この仕組みを取り入れてから、見積もりばかりつくり続けた無駄な時間と労力が大幅に削減されました。勉強会、デザイン契約という2つのハードルを設けることで、お客様と私たちとの間で価値観のすり合わせができ、スムーズに進めることができるようになりました。
ちなみにこの2つのハードルを取り入れてよかったと思えるポイントはもう一つあります。それは価値観の近いお客様と接することで、当社の社員が「仕事が楽しい」と感じてもらえるようになったことです。
今は利益を上げるのがとても難しい時代です。人件費も資材費も値上がりしています。私たちが手がけている新築工事でも、少し前までは坪80万円くらいでしたが、現在は坪100万円のレベルになってきました。
そうした環境の中で、仕入れ値を5%落とすのはとても大変ですが、売り上げを5%高めることならできる、と思っています。そのためには、SE構法の確かな構造をベースにした、オリジナルキッチンのある超高性能住宅を、2つのハードルを通して、提案すること。結果として、お客様の要望を一つひとつ確実にかなえた、期待以上、想像以上の喜びを提供することです。これにより、お客様が価値を認めてくだされば収益につながる。そして、今後この方程式を確立させたい、と考えています。
方程式では見えにくいのですが、経営の理念の中に「縁ある人を幸せに導くこと」というものがあります。その過程で利益が生まれるものだと考え、お客様も社員も私もみんな楽しく、幸せな気持ちになれるような仕事をすることを目指しています。
私自身、ずっとキッチンにこだわり、今はそれに加えて家の性能にこだわっています。よく社員に言われるのですが「うちのお客様はこだわりの強い方ばかりですね」と。私はそれで正解だと思っています。どこの住宅会社でも物足りない。もっと自分らしい家が欲しい。そういうお客様に選んでいただけるような会社でありたいと願っています。
取材:2023年10月19日
株式会社AC15
代表取締役社長 アルコビ・リチャード・ロテム
設立:2007年1月
住所:新潟県新潟市中央区堀之内50-1
AC15ホームページ:https://ac15.jp/
BEST KITCHEN STORE ホームページ:https://www.bestkitchen.jp